ぬくめる

日記です

4月5日

入学式。スーツを着るのはこれで3回目だ。母が「すこし肌寒いだろうから」と、背中にホッカイロを貼ってくれた。

外は雨が上がったばかりで、風で髪が旗のようにばためく。母の言う通り、肌寒かった。会場まで電車で向かう。座席にすわって、本を開いた。少年アヤちゃんの『ぼくは本当にいるのさ』

高級ホテルの宴会場で入学式は挙行される。受付で検温と消毒を済ませ、会場に入った。座面も背もたれもふかふかの椅子が、等間隔で並んでいる。理事長やらが出てくるのであろう中央のステージには金屏風。金屏風の左右には大きなモニター。

式がはじまり、理事長学校長の男性方が壮大な音楽とともに入場する。主役かっての!

なんだかすべてが借り物のような式だった。拍手さえ借りてきたものみたいだった。有難いはずのお言葉も、モニターいっぱいにうつる表情も、なにも感じるものがなかった。ただ未来の話をされたとき、その未来に自分がいない気がしてならなかった。これから勉強するというのに、私には生きる気も、この世に存在する気もなかった。息をするたび胸が痛む。

わたしはどうしてこうなったのか。ヘロヘロで空っぽ。はやく家に帰って、昨日の晩御飯の残りを食べたい。

母が「上手くできた」と喜んでいた時雨煮を食べようと、冷蔵庫を開けた。ラップがかかったお皿を手にとると、それは時雨煮ではなく、いちごのロールケーキとマカロン2つだった。ラップの上に付箋が貼ってあった。「入学おめでとう」