Nook

Nook(ヌック) 「部屋のすみっこ・避難所」

10月4日

朝、なぜか目がパッチリ開いた。体も動く。ごはんを食べて、顔を洗って歯を磨いて、メイクして着替えて、昨日の晩ごはんをお弁当に詰めて、家を出た。

自転車で駅へ向かう。わたしやるじゃん。でも電車に間に合わないかもしれない。

坂を下っていると、うしろでカランカランと音がした。なにか落ちたな、嫌な予感。片手でリュックのチャックを触ると、ない。アクリルキーホルダーが、ない。

もう、いいや。自転車は漕がなくても進んでいく。電車があるし、もう、いいや。憧れだったオサムグッズのアクリルキーホルダー。最近買ったばかりだった。可愛い金髪の女の子のキーホルダー。

電車のホームに駆け込むと、目の前で発車。間に合わなかった。そんなことならキーホルダー… リュックのチャックを触る。やっぱりない。

心のダメージは少なかった。つぎの電車でも間に合うし。1時間目から出席できることのしあわせ。

流れる景色をみる。日の光やみどりの色が夏より目に優しくて、秋だなぁとしみじみした。

1・2限は古典で、3・4限は現代文。国語づくしの時間割だ。現代文の授業は、演劇で知り合った同い年の友だちも同じだった。

その友だちとお昼を一緒に食べた。演劇のこととか、いままでの学校生活の話をした。

そのあと、併修している通信の授業を受けに、教室へ向かった。なかなか会えなかったひとに会えた。「前の高校で同じクラスで同じ部活だった友だち。時期はズレたけれど、わたしとその友だちは、同じ定時制高校に転入した。また同じ教室で授業を受けられるのが、懐かしくてうれしかった。

日本史の授業はとても面白かった。いつのまにか姿勢が前のめりになって、聞くことに必死になった。授業を休んでいた私、大馬鹿者ですよ。(通信の授業なので、年間4回のスクーリングで単位が取れる。あとはレポートを提出するのみ)

お母さんお父さん本当にごめんなさい。学校はちゃんと行かなくちゃ。バイトのお給料で、すこしは学費を払おう。

安心して通える学校だ。わたしはこの学校が好きだ。だけど、なぜか休んでしまう。

学校に行けたら勝ち、行けなかったら負け、など思わないようになりたい。学校に行けた行けなかったで、自分の価値を変えてしまうのを食い止めたい。

家への帰り道、小学校の下校時間と合わさった。慎重に自転車を漕ぐ。替え歌で笑っているふたり組の男の子がいて、懐かしくなった。

行き道でさよならしてしまった、アクリルキーホルダーを思い出す。あのキーホルダー、だれかの宝物になってくれないだろうか。

小さい頃、下ばかり向いて歩くこどもだった。だれかのキーホルダーを、見つけたことがあったな。道路の溝に落ちていた、ねこのマスコットキーホルダー。毛羽立ってゴワゴワしてすこし汚れていた。どこのお店にも売っていない、特別なキーホルダーだった。わたしのものにしたかったけれど、葛藤のすえ、原っぱへ隠した。そういえば、姉は宝物箱のなかに、拾ったマスコットキーホルダーを入れていた。それもねこだった。ミャーちゃん。

オサムグッズは時代を超えて愛されているから、きっと一目惚れするひとがいるはず。あぁ、だれか持って帰ってくれ、訳もわからず心を奪われてくれ。

家についた。マームとジプシーの『cocoon』をみた。なんどもなんどもみてしまう。経験していないことに手を伸ばし想像して考えつづける姿勢が、かっこいい。日本史の授業では第一次世界大戦のことを習った。もっと詳しく知りたい。

19時ごろ、母が帰ってきた。晩ご飯の料理を手伝った。家事を母に任せっきりなので、手伝う習慣をつけたい。いざ手伝うとなると、恥ずかしくなるから、習慣をつけろ!

いま ひらめいたのだけれど、習慣になったやさしさは、尊い気がする。迷いはなく、恥ずかしさもなく、利益を考える間もなく行動にでる。それって本当にやさしくて、それができる人が、やさしい人なのでは。やさしさには種類があるから、それだけではないだろうけど!

夜ごはんを食べながら、母にキーホルダーの話をした。母が「じゃあ、探してみよっか」と言ったので、ふたりで散歩がてら捜索することになった。

母と歩くのが、久しぶりに感じた。いっしょに買い物へ行くこともなくなった。いま書いていて、すこし寂しくなった。こうやって一緒に暮らして話をするのも、いまのうちだけだ。

前に、ふたりの影がながーくうつる。懐かしい。きょうは懐かしいことばかりだ。

スマホのライトを使って捜索したが、アクリルキーホルダーは見当たらなかった。母は、どうやってスマホの懐中電灯機能を使うのか分からなかった。

母が「ありゃまー」とか言うので、キーホルダーが見つからなかったことにすこし悲しくなった。「ここらへん小学生が通るから、だれかが持って帰ったのかもね」と母が言った。誰でも考えることなのかもしれないけれど、わたしたち親子だな、とおもった。セブイレに立ち寄って、アイスを買って、コンビニ袋をカサカサいわせながら、帰った。母が駐車場付近でアライグマをみたことや、ダイエットしなきゃとおもっていることを話した。お父さんとお母さん、お姉ちゃんたちに、長生きしてほしくなった。こんな話をもっといっぱいしたい。