Nook

Nook(ヌック) 「部屋のすみっこ・避難所」

9月16日

寝坊をしてしまって、朝からおばあちゃん家にいる予定だったのに、午後4時におばあちゃん家に到着予定になってしまった。まぁ、朝から行くとは連絡してないからいいか。おじいちゃんに「今から行く」と電話をして、出発。

おばあちゃん家へ向かう道のりは、特別だ。おばあちゃん方面へ向かう電車、窓から見える景色、乗車する人々。

他の電車と違って、この電車では周りの目が気にならない。乗車する人すべてが優しい人にみえる。座席は自分の特等席のように感じる。

降りた駅の改札口で、おばあちゃんが待っている。嬉しそうに笑って、手を広げて、抱きしめてくれる。外国の映画でよく見るシーンを、わたしたちは自然にこなすことができる。

おじいちゃんは車の運転席で待っている。後ろの席におばあちゃんとわたしで座る。おばあちゃんの肩に頭を乗せると、わたしの頭におばあちゃんが頭を乗せる。どんなときでも乗せてくれて、おばあちゃんといるとき、自分の前世は猫だったんじゃないかと、よく思う。

家は二階建てで、ちょっとボロくて、トタン屋根は茶色に錆びている。

玄関に入ると、靴棚の上に、小さい信楽焼の狸がいた。おじいちゃんが旅行先で買ってきたらしい。狸をじっと見ると、おじいちゃんが「それええやろ」と言って、狸の目線をドアの方に調節し、いい感じになったら、狸の頭をポンと叩いた。

お仏壇に手を合わせて、ちょっとしたら、晩ご飯の買い出しに行く。おじいちゃんの車でスーパーに行く。運転がすこし心配になってしまう。キョロキョロしつつ、悟られないよう隠す。

スーパーに着いた。わたしはカートを押す係だ。おばあちゃんに「すき焼き風に焼いたやつがいい? 胡椒のほうにする?」と訊かれた。どうやら今日の晩ご飯は、わたしが好きな野菜炒めらしい。わたしは「すき焼き風が良い」と答えた。

そしたらおじいちゃんが「たまごあるか?」「肉は違う店でみよか」と言うので、嫌な予感がした。本物のすき焼きと話がすり替わっている。

すき焼きなんて!そんな!昨日、姉と父がおばあちゃん家でご馳走を食べたばかりなのに。よし、とんかつにしよう。「やっぱりトンカツが食べたい」

おじいちゃんは職人のような目で、魚やら肉やらとにらめっこする。おばあちゃんとわたしは、お買い得商品を手に取る。おじいちゃんは「そんなんはあかんわ」と、別の高級のほうを勧めてくる。おばあちゃんは「こっちのとそんか変わらんよ」とキッパリ言う。おじいちゃんは「そうか」と口をつぐむ。主婦強し。

次の日の昼ご飯は、エビフライにした。揚げ物続きになるが、まあ食べれるでしょ!

おばあちゃん家のキッチン。ジブリに出てきそうなキッチン。

トンカツの予定だったが、おばあちゃんに「エビフライにしやん?」と言われたので、エビフライにした。トンカツもエビフライも大好き。

おばあちゃんは料理上手だ。よくわたしに「見てるだけでも勉強になるよ」と言う。手伝ったらアドバイスをくれる。

海老の殻をむいて、爪楊枝で背わたをとる。おばあちゃんは器用にとるけど、わたしは身をほじくるだけだった。それから身に斜めに切れ込みを入れる。こうすると海老が真っ直ぐになる。冷蔵庫ですこし冷やす。

薄力粉に、パン粉、卵。わたしはパン粉をまぶして、油で揚げる。

3人で食卓を囲む。おばあちゃんおじいちゃんは、エビフライを4つくらいしか食べない。なぜだ。わたしはいっぱい食べることになる。

おばあちゃん家に行くと、大抵胃もたれする。デザートにぶどうを一房食べたりする。なんたる贅沢ですか。だめだよ!しかも今日は敬老の日なのに。

おばあちゃんとおじいちゃんと過ごしていると、平和ボケしてしまうほど、穏やかでいられる。ゆるい防犯意識のこの家に、なぜ空き巣犯がこないのか。ここらにはやさしい人しかいないんじゃないか。ユーミンの『やさしさに包まれたなら』を思い出す。きっとここには神様がいるように思う。

いやいや、平和ボケしちゃいけねえ。わたしになんの責任もいらないから、こんなに安心できるのだ。ここは学校もバイトにも無縁な場所で、いまは夏休みだから学校に行っていないという罪を犯していないし、おばあちゃんおじいちゃんは、わたしの生活状況をあまりしらないから。

ぐうたら猫になった気分だ。たまにはこんな生活もいいのだろうけど、わたしは何にも頑張っていないから、いつもぐうたら猫だから、だめだ。

二階に敷布団をひいて、寝る準備をする。おばあちゃんたちは、一階でテレビを見ている。前よりテレビの音量が大きくなった気がする。おばあちゃんは耳が遠くて、言葉が音として伝わってしまう。わたしは言葉にするのを怠って、つい頷きや首を振ることで答えてしまう。おばあちゃんともっと会話をしないと。補聴器も合わないらしい。聞こえやすい音量とトーンがあるみたいで、研究している。おじいちゃんの言葉はおばあちゃんに届く。会話もスムーズにしている。

おばあちゃん家のすべてが好きだ。鏡、タンス、ドライヤー、えんぴつ、テレビ、なんでも。おばあちゃん家にあることによって、プレミアがつく。おばあちゃんが大好きだから。

お風呂に入って、化粧水塗って、ドライヤーをして、横になる。となりにはおばあちゃんがいる。わたしが寂しいだろうと思って、いてくれる。寂しくないけど、一緒に寝る。おばあちゃんはプスープスーと寝息をたてる。うるさいけど、一緒に寝る。