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日記です

お金は、大切

財布に入っているいちばん大きなお金は100円だった。明日どうしても大事な用があるのに、これでは電車賃も出せない。姉に…姉にお金を借りようと思った。アルバイトのため23時過ぎに帰宅し、ご飯を食べ、お風呂に入り終わった姉を訪ねた。姉の部屋はいつも綺麗で清潔で、散らかっているのを見たことがない。もう0時45分だった。それでも姉は洋服を畳んでタンスに入れている。明日にすればいいのに。姉は看護学校に通っている。学業に忙しくバイトはしていなかったが、お小遣いだけじゃ足りないこと、母への借金が積み重なったこと、母がお金について厳しくなったことなどで、学校に加えて週4でバイトをしはじめた。

姉に「お金を借してください」と申し立てた。目を見れなかった。思えば、姉からお金を貸してと頼まれたことはない。姉もお金が無かった。一万円を持っているが、これは明日チケット代として振り込まなければいけないらしい。

母に借りるか、と思ったが、どうしても借りたくなかった。姉にその旨を伝えると「わたしも、バイトやってなくてお小遣いだけやったとき、お金がなくてお風呂場で泣いたことある。シャワーでてるときにウワーッて泣いて、シャワー止めたら、静かに泣いてる」と言った。そうだったのか。いままで、バイトをしていないために、お小遣いを貰っていた姉を下に見ていた。お小遣いをやり繰りできない姉が悪いと思っていた。泣いてたのか。お風呂場で。そんなに思いつめてたのか。ごめん。

姉から「あ、ATMで、残高なくても引き出せるで」と聞いた。初耳だった。姉は前にこの方法でしのいだらしい。一万円、ATMから借りよう。

リビングに行き、姉とタピオカミルクティーで乾杯をした。お互いなんとか頑張ろう。時計を見ると、もう1時を過ぎていた。

自分の部屋に戻る。とても汚い。姉はやっぱりすごい。明日の準備をしていると、姉が来た。小声で「明日お金足りる?」と訊かれた。借りるわけにはいかない。「ATMに借ります」と言った。


翌日午前11時。ATMに駆け込んだ。通帳を入れて、お引き出しのボタンを押す。…無理じゃん。出てこないじゃん。残高がありませんって言ってるじゃん。もう一度やった。…出てこないじゃん。通帳記入をした。残高は77円だった。ラッキー7じゃん。いや、話が違うじゃん。姉に電話を入れる。一向にでない。家の固定電話にかけてもでない。母しかいない。母に電話をする。でない。涙がでてきた。でもこれで泣くのはヤバすぎる。とりあえず家に帰ろうと思った。駐輪場に行って、姉に電話をかけると、出た。消え入りそうな声で「お姉ちゃん…お金が出えへん」と言った。姉は「うそやん」と言った。家に帰ることにした。自転車で坂を下る。頭の中にぐるぐる回っている。カイジ闇金ウシジマくん指詰め、身売り、焼き土下座、人間競馬、電流鉄骨渡り…

12時過ぎの電車。12時過ぎの電車に乗らなくちゃいけない。財布の中に入っているいちばん大きなお金はやはり100円。余裕がなくなる。叫びそうになった。貧乏でも心が豊かならいいと言うけど、そんなの難しい。貧乏でも心が豊かって凄すぎる。お金より愛とか言ってらんない。小さい頃は疑いもしなかったのに。

家のドアを開けると、姉が一万円を持って突っ立っていた。悲しかった。とても悲しかった。それはチケット代だ。昨日楽しみだと言ってた舞台のチケット代じゃん。受け取れなかった。半分諦めかけていた。姉が母に電話をかけた。繋がった!!姉に電話を代わってもらった。ぐしゃぐしゃに泣きながら理由を話すと、母は笑った。「タンスに一万円入っているから、それ持ってき」と言ってくれた。茶封筒からピン札の諭吉がでてきた。神々しかった。三姉妹の一番上の姉のいい加減さを見てきたから、借金はできるだけしたくなかった。してしまった。絶対繰り返さないように。

姉が玄関まで見送ってくれた。奇跡的に乗るはずだった電車に間に合った。情けなくて、電車ではポーッとしていた。

(この経験を経て、歩行人にわざとぶつかる人とか、舌打ちしてる人に対して、想像できるようになった。お金のない人への仲間意識ができた気がする。皆さん、なんとか頑張りましょう。わたしは、バイトをしてお金に困る経験ができて本当に良かった。)