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日記です

眼科の待合室で、ふたりの会話を盗み聞きしていた。眼鏡をかけた色白のぽっちゃりした男の子と、ポニーテールの明るい女の子がする話。

プレステでゲームをしながらも、確実に返答をする男の子と、そんなのおかまいなしに喋る女の子。男の子は聞き上手で、とても丁寧な返しをしていた。わたしはこんな楽しそうな会話を、はじめて聞いた。中学生って思春期でお互い恥ずかしがるもんじゃないのか。男子ってこんなに喋ってくれるのか。喋ろうとしてくれるのか。わたしはいったい…

ふたりの会話によると「学校では喋らんけど、ふたりで会ったら喋る」ような関係らしい。眼科でたまたま会ったふたり。話題は、大体が愚痴だった。

「俺、学校のプールがくそ嫌やねんなー」「プールできますマウンティングが嫌や」「確かに水泳教室通ってたけどさ、すぐ辞めたから、そんなん言われてもさ」「やっぱ泳ぎかたを知ってるかと、体力やで」「水泳やるメリットほぼない」

「彼氏おります充実してますアピールがうざい、嫌味や」「あいつさ、なんもしてないのに殴ってくるねん」「それはヤバイ」

「さっきから愚痴しか喋ってないな、クラスの愚痴、男子の愚痴、部活の愚痴、愚痴、愚痴、愚痴」「くだらんこと喋らな生きていかれへんもん」「うん、くだらん人間やもん、俺ら」

「LINEの友達220人、喋るのは0人」「いま携帯持ってないん?」「うん、学校からそのまま来たから」「えー、交換したかった」

5月8日 ヤバイ

恋だ、恋ですわ、えー!いや、恋かー。おお、恋だ。明らかに恋だ。分かりやすい恋だ。

身だしなみに気を使う。右頬のニキビを恨む。エレベーターもエスカレーターも必要ない、痩せるために階段をつかう。隙あらば考える。それでニヤつく。おまじないとか調べてみる。小学生か。あれはプラシーボ効果だ。プラシーボ効果

学校の図書室に行ったら、いつのまにか恋についての本ばかり手にしていた。恋の字が浮かんで見える。窓際の本棚に、ピンク色の背表紙に、赤のゴシック体でタイトルが書かれた本が集合していた。全タイトルに共感した。これ、小学校でも置いてあったなぁ。読みたかったが、やめた。また、あとにしよう。まずは、恋愛の精神年齢を上げるのだ。

司書さんに本を渡した。少し恥ずかしい。貸出用のバーコードが上手く読み込めなくて、司書さんは焦っていた。「あー、恋ってそんな感じっすよね、読み込めないっすよね」と思った。なんでも恋に結びつけたがる。

ぜんぜん喋ったことないのに、こんなに好きになるのか。いや、恋愛体質ってやつなのか、とにかく浮かれすぎだ、落ち着こう、落ち着こう。

この日記をいつか読み返そう。その時は、峰不二子くらいになっていてほしい。

君はちっともさえないけど

真面目な人が好きだ。自転車通学で毎日ちゃんとヘルメットを被る人。校則を守って学校に携帯を持ってこない子。授業で積極的に手をあげる勉強熱心なあの人。先生に見つかって怒られるのが怖くてバレンタインのチョコを持ってこれなかった子。友だちのサボりに付き合うも、周りが気になりすぎてただ心をすり減らしたあの子。

わたしは天性の真面目じゃない。中途半端だ。ドラマの登場人物のようにエリートじゃない。わたしは正義感の強い頭の悪い落ちこぼれだ。秀でたところがない。先生にもクラスにも部活もバイトの先輩に対しても、礼儀の正しさくらいしか自信がない。

電車に乗っていたら、こういう会話が耳に入った。「礼儀正しすぎて、面白みがないねんな」「あー」「テンプレ通りっていうか、つまんない」

ずっと、ずっとそんなこと分かっていた。わたしはつまんない奴だ。だって礼儀正しさくらいしか誇れるものがない。

小さい頃から毒を嫌っていた。親戚に宗教に入っている人はいないし、とくに影響を受けたわけではない。でも、キリストの生き方がかっこいいと思っていた。アンパンマンになりたかった。オスカーワイルドの「幸福な王子」にえらく感動した。銀河鉄道の夜も。宮沢賢治雨ニモマケズみたいに生きたかった。でも、わたしは完璧な純粋ではない。素質がなかった。わたしも毒を持っていた。小学生の頃は悪口を言ったし、傷つけることをよくしてしまっていた。中学生になってからは、悪口を言ったあとの苦しさに耐えられなくて、少なくなっていった。高校生は言わなかった。人の悪口にも乗っかれない。そこがつまんないのだろうか。

毒をうまく使うと、魅力になると思う。賢く使えるのであれば。それがズルくてムカつくし、憧れる。なんか親近感も湧くじゃん。ずっと毒を抑えてきたからか、今は耐性がついたみたいで、自覚することが難しくなった。文句を言うのも怒るのもできなくなった。悪くないのに雰囲気を良くするために謝る。わたしの真面目は魅力的じゃない。真面目が魅力的な人はいる。わたし以外の真面目な人はみんな魅力的だよ。あなたが周りに笑われるたびに愛してるっておもう。どうしたらいいんだろう。わたしの好きな寺山修司には毒がある。宮沢賢治は毒を知っているからこそ、書けた物語がある気がする。人とどう接すればいいのか。どれくらいのことならしていいのか。ぜんぜん分からない。分からなくて、苦しい。真面目を捨てたくない。けど、毒を持ちたい。中間が分からない。極端すぎる。傷つけるのを恐れすぎている。

自分を守りすぎているけど、こんな自分は好きなんだ。毒を出したくない。でも、毎晩自分が嫌になる。毒を知りたい。

わたしは真面目な人を守れない。真面目をバカにする人に言い返せない。何の役にも立てない。スクールカースト底辺は、何にもできなかった。言えなかった。上手く喋れないし、頭が悪いし、要領が良くない。顔も良くない。

護身術や空手を猛烈に習いたい。面白くなりたい。コミュニケーション能力が欲しい。可愛くなりたい。手を出せないくらい可愛くなりたい。誰にも犯されない聖域が欲しい。頭が良くなりたい。賢くなって、優しくなりたい。そんな超絶ハイスペックになって、真面目な人を、守りたい。

でもなれないから、自分も毒を持って、戦うのだ。

『君はちっともさえないけど/宍戸留美』絵恋ちゃん×福田裕彦 - YouTube

宍戸留美さんの曲。これはアイドルの絵恋ちゃんがカバーしてます。絵恋ちゃんはカッコよくて可愛い。こんなふうに、愛したい。

お金は、大切

財布に入っているいちばん大きなお金は100円だった。明日どうしても大事な用があるのに、これでは電車賃も出せない。姉に…姉にお金を借りようと思った。アルバイトのため23時過ぎに帰宅し、ご飯を食べ、お風呂に入り終わった姉を訪ねた。姉の部屋はいつも綺麗で清潔で、散らかっているのを見たことがない。もう0時45分だった。それでも姉は洋服を畳んでタンスに入れている。明日にすればいいのに。姉は看護学校に通っている。学業に忙しくバイトはしていなかったが、お小遣いだけじゃ足りないこと、母への借金が積み重なったこと、母がお金について厳しくなったことなどで、学校に加えて週4でバイトをしはじめた。

姉に「お金を借してください」と申し立てた。目を見れなかった。思えば、姉からお金を貸してと頼まれたことはない。姉もお金が無かった。一万円を持っているが、これは明日チケット代として振り込まなければいけないらしい。

母に借りるか、と思ったが、どうしても借りたくなかった。姉にその旨を伝えると「わたしも、バイトやってなくてお小遣いだけやったとき、お金がなくてお風呂場で泣いたことある。シャワーでてるときにウワーッて泣いて、シャワー止めたら、静かに泣いてる」と言った。そうだったのか。いままで、バイトをしていないために、お小遣いを貰っていた姉を下に見ていた。お小遣いをやり繰りできない姉が悪いと思っていた。泣いてたのか。お風呂場で。そんなに思いつめてたのか。ごめん。

姉から「あ、ATMで、残高なくても引き出せるで」と聞いた。初耳だった。姉は前にこの方法でしのいだらしい。一万円、ATMから借りよう。

リビングに行き、姉とタピオカミルクティーで乾杯をした。お互いなんとか頑張ろう。時計を見ると、もう1時を過ぎていた。

自分の部屋に戻る。とても汚い。姉はやっぱりすごい。明日の準備をしていると、姉が来た。小声で「明日お金足りる?」と訊かれた。借りるわけにはいかない。「ATMに借ります」と言った。


翌日午前11時。ATMに駆け込んだ。通帳を入れて、お引き出しのボタンを押す。…無理じゃん。出てこないじゃん。残高がありませんって言ってるじゃん。もう一度やった。…出てこないじゃん。通帳記入をした。残高は77円だった。ラッキー7じゃん。いや、話が違うじゃん。姉に電話を入れる。一向にでない。家の固定電話にかけてもでない。母しかいない。母に電話をする。でない。涙がでてきた。でもこれで泣くのはヤバすぎる。とりあえず家に帰ろうと思った。駐輪場に行って、姉に電話をかけると、出た。消え入りそうな声で「お姉ちゃん…お金が出えへん」と言った。姉は「うそやん」と言った。家に帰ることにした。自転車で坂を下る。頭の中にぐるぐる回っている。カイジ闇金ウシジマくん指詰め、身売り、焼き土下座、人間競馬、電流鉄骨渡り…

12時過ぎの電車。12時過ぎの電車に乗らなくちゃいけない。財布の中に入っているいちばん大きなお金はやはり100円。余裕がなくなる。叫びそうになった。貧乏でも心が豊かならいいと言うけど、そんなの難しい。貧乏でも心が豊かって凄すぎる。お金より愛とか言ってらんない。小さい頃は疑いもしなかったのに。

家のドアを開けると、姉が一万円を持って突っ立っていた。悲しかった。とても悲しかった。それはチケット代だ。昨日楽しみだと言ってた舞台のチケット代じゃん。受け取れなかった。半分諦めかけていた。姉が母に電話をかけた。繋がった!!姉に電話を代わってもらった。ぐしゃぐしゃに泣きながら理由を話すと、母は笑った。「タンスに一万円入っているから、それ持ってき」と言ってくれた。茶封筒からピン札の諭吉がでてきた。神々しかった。三姉妹の一番上の姉のいい加減さを見てきたから、借金はできるだけしたくなかった。してしまった。絶対繰り返さないように。

姉が玄関まで見送ってくれた。奇跡的に乗るはずだった電車に間に合った。情けなくて、電車ではポーッとしていた。

(この経験を経て、歩行人にわざとぶつかる人とか、舌打ちしてる人に対して、想像できるようになった。お金のない人への仲間意識ができた気がする。皆さん、なんとか頑張りましょう。わたしは、バイトをしてお金に困る経験ができて本当に良かった。)

4月4日

春のなかを歩く。空も桜も菜の花もかわいい。歩く人も電車に乗る人も、かわいく見える。ホームにある電光掲示板には、「ご就職おめでとうございます…」の文字が流れていた。もしわたしが就職に失敗したら悲しくなるから、やめてくれ、と思った。電車に人がわらわらと乗り込んでくる。さすがに満員電車をかわいいとは思えない。

浮かれている。新しい元号が発表されて、なんだかツイッターもお祭り騒ぎで、シン先輩のツイートは8万RTをいったりして。就職や進学をした先輩方は、ツイッターでお互いを励まし合っている。

春のくせに、これまでになく精神が安定している。花粉症がうっとおしいだけで、そのほかに体も心も問題はない。夜はぐっすり眠れて、朝を呪うこともない。息がしやすい。あれだけ苦しんでいた自分はどこに行ったんだろう。ときどき会いたくなる。でもきっと、人魚になって優雅に泳いでいるはずだから、大丈夫。わたしを狙っていたサメはどこかにいった。潜んでいるだけで、また出てくるかもしれない。海を渡るいろいろな方法と避難所を、これから見つけていく。

【今日の夢】

和歌山の神社に1人で行く。神主さんから、「ここで写真を撮ると絶対に幽霊が写るから止めましょう」と注意されるも、スマホで写真を撮る。バッチシ幽霊うつってる。怯えるわたしに、通りすがりの除霊師 霊ヶ崎 礼巳子さんが「除霊、しときましょうか」と言う。霊ヶ崎さんは、2次元だった。名前も登場時にテロップで出てきたから分かった。黒髪のセミロングで巫女っぽい服装。19歳くらいの清純派ヒロインな感じだった。

とりあえず霊ヶ崎さんについていく。霊ヶ崎さんに「どんな幽霊ですか?」と訊くと、「大人の女性よ」と言った。通行人の男性2人組から「マジで除霊できんすか?」と揶揄われた霊ヶ崎さん。霊ヶ崎さんは、わたしの斜め後ろの空間に話しかけた。「どこからきたの?」「はーいよしよし」しゃがみこんで、犬を撫でるように、何かを撫でている。頭の位置が低い。大人の女性の幽霊じゃなかったのか。霊ヶ崎さんへの信頼が薄れた。

ここで、夢から醒める。

-完ー

黒い車窓に自分が二重に映る。耳に注ぎ込まれる音楽は、いつもは救いなのに、今日はぼやけている。たくさんの人のなかで、うつむく。斜め前の人に靴紐を踏まれ、紐がほどけた。人が降りて車内が空いても、結び直す気は起きなかった。そのまま二駅。

雨の中で傘をささない、さしたくないときの気持ちと似ている。悲しい気持ちを抱いていることを、誰とも分かち合うつもりのないとき。

ぼんやり窓に映る自分が、もどかしい。ハッキリ映れよ。心がスカスカだ。元気なところは喰い散らかれ、腐りきった劣等感だけが残っている。ムカつく。

自分だけの悲しみ劣等感。わたしはもっと勉強しないといけない。本も演劇ももっと観て、もっと書いて書き続けて。これからだからなんて言ってられない。手放したくない。底なしに悔しい。いつか死ぬから、いまが辛くてもいい。ずっと辛くてもいい。いくつになってもバイト生活でも、お風呂に入れなくてもいい。いいから、上手くなりたい。

靴紐を結び直す決心をした。このままじゃ歩きづらい。